長谷川式の落とし穴

 長谷川式認知症スケールというのは、言葉でのやりとりを通じて見当識(いま自分が置かれている状況を把握する能力)や短期記憶(少し前のことをどのくらい覚えていられるか)を調べるテストです。日常的にどのくらいもの忘れするかを私が一日中近くでじーっと見ている訳にはいかないので、診察室で決まった質問を行い、点数をつけるのです。30点満点で、20点以下だと認知症の疑いが強い(カットオフポイント)と言われています。

 

 ただこの長谷川式にも注意しなくてはいけないポイントがあります。
注意1)教養に左右される
注意2)ピック病では高得点をとることがある。

 

注意1)教養に左右される

 点数は元々の教養レベルや年齢によってかなり左右されます。学校の先生のように頭を使う仕事をしていた方だと、こういうテストは得意かもしれません。また同じ点数でも、60歳になったばかりの方が25点なのと、89歳の方が25点なのでは、こちらの評価は違います。ですから21点ならセーフ!20点だとアウト!というように明確に白黒をつけるものではなくて、この年齢とこの学歴でこの点数はどうか、と総合的に考えなくてはいけません。

 

長谷川式の落とし穴

 

注意2)ピック病では高得点をとることがある

 前頭葉が委縮するピック病という疾患では、初めの頃は記憶の座である海馬があまり萎縮がせず、長谷川式で高得点をとる方がいます。私の患者さんで30点満点をとっているにも関わらず、透析が必要な旦那さんを無理やり車で遠くに連れて行ってしまい、周囲からの連絡を絶つという行動をとったピック病の方がいます。このようにピック病は激しく怒って手を挙げたり、また万引きなど社会で問題とされる行動が出やすい病気です。(行動障害型認知症と言われます)
 その行動に家族は振り回されて大変であるにも関わらず、長谷川式の点数がいいからという理由だけで医師に「認知症ではありません。」と診断されてしまうことが時々あります。認知症に関して不勉強な医師の頭の中では、認知症=もの忘れの病気、という図式があるのでしょうが、それがすべてではありません。記憶力がいいタイプの認知症の方もいるという知識を持った医師の元を再受診することも検討する必要があります。あくまで、日ごろの症状が主で、心理検査は従(参考)です。

 

 長谷川式は、点数が高い低いというだけではなく、どの項目で点数を落とすか、答える時にどんな態度をとるかなどの情報も、タイプを決めるのに参考になるなど、非常に奥が深い検査だと思います。
テストの中身はインターネットでも簡単に知ることができますが、ご本人に対して事前に予習をさせてしまっては意味がありません。ありのままの実力をはかることができず、意味がなくなってしまいます。

 

 余談ですが、意外と多いのが、隣りに座っているお連れ合いが、答えられなくて困っているご本人に助け舟を出してしまうこと。野菜を10個答えるところで「ほら、カレーに入っている野菜よ!」など。その愛情深さは素敵ですが、これでは夫婦の総合得点になってしまいます(笑) 検査中はじっと我慢して口をつぐんでいて下さるよう念を押しておかなくてはいけません。