ピック病と理性の座


突然ですが、脳の前頭葉がどのような働きをしているか知っていますか?

 

‘理性の座’と表現される通り、本能的な欲求を抑え理性的な振る舞いなどに関与していると言われています。
あなたもこの前頭葉の働きが悪くなる状況はあります。

 

理性の座が侵される

 

 お酒を飲んだ時です。
 アルコール摂取の影響で、衝動性にブレーキがかからなくなってしまう。だから酔っ払いは、周囲を顧みず大声で歌を歌ったり、他人に絡んで喧嘩をしたり、裸で床に寝てしまったりするんですね。
この前頭葉が萎縮し、慢性的に働きが低下するのが、ピック病。前頭側頭葉型変性症というグループに属しますが、ピック病は主に前頭葉症状から始まるものを指します。

 

 ピック病の患者さんの症状のキーワードは‘脱抑制’です。理性のブレーキが利かず、行動が衝動的になります。その結果、傍から見たら自己中心的だったり傍若無人に見える振る舞いが目立つことになるのです。
 たとえば外来では、家族が予約を入れて何とか待合室まで連れてきたにも関わらず、長時間待てなくて怒って帰ってしまうとか、「何で自分が診察受けなきゃいけないんだ!」なんてすごい剣幕で怒って診察室に入ってくれない場合、診察が始まる前から「ピックかな?」と思います。診察室に入ってきても、ものすごく不機嫌で腕とか足を組んでふんぞり返ったり、こんな言い方は失礼なんですが「感じが悪い」のが特徴です。日常生活でもスイッチ易怒と言って、突然スイッチをパチンといれたように怒ったり、家族や介護スタッフの方に大声を出したり手をあげたり、お店で万引きをしてしまったり。

 

 それから介護者の姿が少しでも見えないと、「お〜い!お〜い!お母さ〜〜ん!!」なんて大声で呼んで落ち着かなくなったりというシャドーイングなどという行為も見られます。衝動が強くてお金をすごい額浪費してしまったり、甘い物が好きになって一気に沢山食べてしまったりというのも特徴です。
理性の座が侵される

 

 ピック病の方の近くで生活するのは大変だな…と思いませんか?その通り。ピック病は断トツで介護が大変であることが多いタイプなんです。以前ケアマネージャーさん向けの勉強会で、ケアに悩む利用者さんを挙げて下さい、と言って3つのケースをピックアップしたのですが、なんと全員ピック病でした。
 ピック病の診断で大切なのは、前頭葉のみが先にやられて海馬(記憶に関与)が元気な状況では、記憶に大きな問題が見られないこともあるということ。長谷川式という記憶力を確認するテストでは満点近くの高得点をとることがあるため、長谷川式だけをよりどころにして認知症の診断をしようと思うと、認知症と診断されないことがあるのです。不勉強な医師に「認知症ではありません。自分勝手なのは元々の性格でしょう。」と言われてしまった方もいます。
 そして認知症と診断されないまま反社会的行為を行い、それが犯罪となってしまうと大変です。公務員のピック病患者さんで横領などで免職になった方がいました。診断が事前にしっかりついていれば、病気の症状ということで罪を免れたはずが、診断がついていないがゆえに社会的制裁を負うことになり、さらに認知機能が落ちてしまうということが起こり得ます。

 

 こういった症状は適切に薬を使うことでかなり改善できますし、介護負担も軽減できます。